神様講座
2011年 01月 21日
その古い雑居ビルにはエレベーターなんてなかった。
4階まで落書き混じりの階段を上り、部屋の前で立ち止まった。
ドアには『神様講座(60分コース)』と張り紙がしてあった。
始めは笑いの種にでもと申し込んだこの講座。
しかし、意外にも講師は本物の神様だった。
授業が終わったある日、僕は神様の元へ行った。
「すみません神様、質問です。運命って何ですか?」
「運命?、、運命は運命じゃ。それではまた来週」
「ちょっと待った!
さっき、人がいつどうゆう死に方をするのかは決まってるって言ってたじゃないですか」
「まーな、それは決まっとる」
「それじゃ、自分がいつどこで誰と出会うとか、何時何分の電車に乗るとか、この日歯磨きをし忘れるとか、そんな細かいことまで決まっているってことですか?」
「うーん、そこまでは決まっとらんよ」
「…でも死に方は決まってるんでしょう?」
「まーな。じゃ、ワシはこれで」
「ちょっと待った!じゃあ例えば、、
ある日、僕が日本橋の交差点を渡っている時に居眠り車が突っ込んできた。
それをよけた僕がたまたまマンホールの上にいて、その時たまたま地下でガス爆発が起きて、マンホールの蓋と共に空へと吹っ飛んだとするよ。
だけど運命でそう決められた日の前月に、アザラシと暮らすと言って僕がアラスカに移住してたらどうするのさ?」
「そりゃあ、戻ってくるように帳尻を合わせるのさ」
「日本橋に?」
「日本橋に」
「マンホールの上に?」
「そう、マンホールの上に」
「じゃあ、アラスカの雪道でスリップした僕の車がアラスカの人を傷つけたとしたら?
その人の運命は、僕に傷つけられるって決まってたの?」
「うーん、、」
「本当はぜんぶ決まってるんでしょ!」
「いやいや、バレてしまったか」
「もー神様ったら、、頭の輪っかフリスビーみたいに飛ばすよ」
「じゃあ、やっぱり全てが決まってるってことなんだね?」
「うーん、ごめん、ワシはもう行く。エクセルの勉強が…」
「エクセル?エクセルで創ってんの!?おれらの人生。
おい、ちょっと待って!待てったら…」
誰もいなくなった教室の一番前の椅子に腰を下ろして、あたりを見回してみた。
子どもの頃、放課後、忘れ物を取りに戻った誰もいない教室の静けさに似ていた。
仮に全てが決まっていたとしよう。
日本橋のマンホールの蓋と共に空高くその生涯を終えてもいいさ。
未来は知らされないんだからね。
結局未来は未知のまま、変わらない。
誰と出会い、いつ別れ、どこに向かい、どこで寄り道をし、どこで曲がり、どこで走り、、。
でも、その時々の感情の揺れ幅は?
同じ景色を見て何も思わなかった人、涙を流した人。
道中で何も気づかなかった人、風が気持ちいいと感じた人。
傷つけられた時に、傷つけた人を憎んだ人、自分が傷つけた人のことを思い出した人。
あまり笑わなかったひと、たくさん笑った人。
雑踏の交差点、あのとき点滅し始めた信号で止まった君と走り出した僕。
それはもう、実は決められていたことだったのかもしれない。
そして、これから先のことも実は決まっているのかもしれない。
それならば、その中でめいっぱい瑞々しく生きよう。
テキストをめくってみた。
第三回『天国での就職を有利にする下界での生き方』
次回の講義テーマが記されていた。
【赤でも行け】
人生には赤信号でも行かねばならない時がある!
そんな時、こういった信号で教えてほしいよね。
赤でも行け!だけど右だけは行くな。みたいな。
いや、もしかしたら「上に行け!」かもしれない。
甘い!自分で決めなきゃいけないのである。
4階まで落書き混じりの階段を上り、部屋の前で立ち止まった。
ドアには『神様講座(60分コース)』と張り紙がしてあった。
始めは笑いの種にでもと申し込んだこの講座。
しかし、意外にも講師は本物の神様だった。
授業が終わったある日、僕は神様の元へ行った。
「すみません神様、質問です。運命って何ですか?」
「運命?、、運命は運命じゃ。それではまた来週」
「ちょっと待った!
さっき、人がいつどうゆう死に方をするのかは決まってるって言ってたじゃないですか」
「まーな、それは決まっとる」
「それじゃ、自分がいつどこで誰と出会うとか、何時何分の電車に乗るとか、この日歯磨きをし忘れるとか、そんな細かいことまで決まっているってことですか?」
「うーん、そこまでは決まっとらんよ」
「…でも死に方は決まってるんでしょう?」
「まーな。じゃ、ワシはこれで」
「ちょっと待った!じゃあ例えば、、
ある日、僕が日本橋の交差点を渡っている時に居眠り車が突っ込んできた。
それをよけた僕がたまたまマンホールの上にいて、その時たまたま地下でガス爆発が起きて、マンホールの蓋と共に空へと吹っ飛んだとするよ。
だけど運命でそう決められた日の前月に、アザラシと暮らすと言って僕がアラスカに移住してたらどうするのさ?」
「そりゃあ、戻ってくるように帳尻を合わせるのさ」
「日本橋に?」
「日本橋に」
「マンホールの上に?」
「そう、マンホールの上に」
「じゃあ、アラスカの雪道でスリップした僕の車がアラスカの人を傷つけたとしたら?
その人の運命は、僕に傷つけられるって決まってたの?」
「うーん、、」
「本当はぜんぶ決まってるんでしょ!」
「いやいや、バレてしまったか」
「もー神様ったら、、頭の輪っかフリスビーみたいに飛ばすよ」
「じゃあ、やっぱり全てが決まってるってことなんだね?」
「うーん、ごめん、ワシはもう行く。エクセルの勉強が…」
「エクセル?エクセルで創ってんの!?おれらの人生。
おい、ちょっと待って!待てったら…」
誰もいなくなった教室の一番前の椅子に腰を下ろして、あたりを見回してみた。
子どもの頃、放課後、忘れ物を取りに戻った誰もいない教室の静けさに似ていた。
仮に全てが決まっていたとしよう。
日本橋のマンホールの蓋と共に空高くその生涯を終えてもいいさ。
未来は知らされないんだからね。
結局未来は未知のまま、変わらない。
誰と出会い、いつ別れ、どこに向かい、どこで寄り道をし、どこで曲がり、どこで走り、、。
でも、その時々の感情の揺れ幅は?
同じ景色を見て何も思わなかった人、涙を流した人。
道中で何も気づかなかった人、風が気持ちいいと感じた人。
傷つけられた時に、傷つけた人を憎んだ人、自分が傷つけた人のことを思い出した人。
あまり笑わなかったひと、たくさん笑った人。
雑踏の交差点、あのとき点滅し始めた信号で止まった君と走り出した僕。
それはもう、実は決められていたことだったのかもしれない。
そして、これから先のことも実は決まっているのかもしれない。
それならば、その中でめいっぱい瑞々しく生きよう。
テキストをめくってみた。
第三回『天国での就職を有利にする下界での生き方』
次回の講義テーマが記されていた。
人生には赤信号でも行かねばならない時がある!
そんな時、こういった信号で教えてほしいよね。
赤でも行け!だけど右だけは行くな。みたいな。
いや、もしかしたら「上に行け!」かもしれない。
甘い!自分で決めなきゃいけないのである。
by a_k_essay
| 2011-01-21 22:22